HAIJI


「──え?」


 大和の言葉に、一偉は目を丸くした。


「親?」
「ああ」
「ちょっと待って。佐々来っていくつなの?」
「15、6ってとこ」
「大和、本気で言ってる?」


 嫌な予感がしつつも、大和の“頼み”は予想を遥かにに越えた突飛な話だった。
 一偉の動揺とは裏腹に、大和は至極真面目に一偉を見据えている。
 その視線から、一偉はそれ以上問い詰める無意味さを悟った。


「──15、6って…大和。親以前に、ハイジとして適応できるかどうかの方が現実的な問題だけど。
最近ハイジになる年齢層が高くなってきてる。でも、実際スラムに来たって、そういうやつは殆んど生きられないんだ」
「わかってる」
「わかってる、って…」
「ああ、わかってる」


 大和が同じ言葉を繰り返した。
 一偉が口を閉ざす。
 その先に、大和の考えがあるのだ。


「とにかく、佐々来を一年で親に育てて欲しいんだ」
「俺は?お役目御免?」
「そう拗ねるなよ。一偉には他にやってもらいたいことがある」


 一偉は肩の力を抜く。
 目の前の“小さな山”をぐるりと眺める。


「やるしかないんだろ」


 一偉は、どうして、とは聞かない。
 保護区域ができる前からハイジだった一偉と、仕事で日本国中のスラムを回る大和の関係は長い。
 聞いても無駄であることを、一偉はよく知っている。
 だけれど、そこに不満や不安を感じたことはない。

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