地の棺(完)
黙り込まれれば、ここにいるのは自分一人なんじゃないかと錯覚してしまいそうな深い闇。

痛む左足を引きずりながら、わたしは初君を探した。

冷たく湿った土を這ううちに、指先が人の温かみを感じる。


「初……」


呼びかけようとしたその時、手を強く引っ張られた。

あっと思う間もなく、薄い胸に抱きしめられる。

かすかに匂うお香の匂いと、着物の柔らかな生地。


「初……ちゃん?」


「また『ちゃん』って呼んだ」


初ちゃんの体は、ガタガタと震えている。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


そう言うと、私の肩に顔を埋める。

初君の存在がなければ、わたしはこの闇の中で、ここまで平気でいられただろうか?

きっと無理。

それはきっと初君も同じなのだろう。

ここがどこだか知っているだけに、怖くかったはず。

わたしは初ちゃんの背中に、そっと手を回した。

トントンとあやすようにたたくと、


「やめてよ。子供じゃあるまいし」


と悪態をつく。

でも初君は震える手の力を更に強めた。


不思議な人。


最初に現れた時は女の子の姿をしていて、とてもかわいくて、久しぶりに友達になれる子に出会えたんじゃないかと思った。

でも実は男の子で、椿さんって彼女がいて。

しかもいじわるって言葉では済ませないほどに不謹慎で非情。

わたしのことを馬鹿にしてばかりなのに……妙に気になる。

上辺だけ優しい志摩家の人々の中で、素のまま接してくれるから?



話題を変えて初ちゃんの不安を取り除いてあげたい。

そんな気持ちから出た言葉は、


「……初ちゃん。椿さんって彼女なの?」


自分でも予想外のものだった。
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