地の棺(完)
どこかで聞いた話だった。

でも口は挟まず、黙って快さんの言葉を待つ。


「俺が十二、十三歳くらいの時だった。
家にある女性が住むことになったんだ。

女性の名前は越智綾子(おちあやこ)
よく島に来る地質研究者の一人だった。

綾子さんはこの島の土に魅せられ、移り住んだんだ。

長い黒髪が綺麗で、静かに笑う笑顔が素敵だったよ」


懐かしく様な口調の快さん。

まるでその女性に好意をもっていたような……いや、実際好きだったのかもしれない。


「でもね、最初は楽しそうだった彼女が、どんどん暗くなっていって……

そして突然いなくなったんだ。

話したよね。聞いてるんだよね。神隠し騒動のこと」


「はい。雪君に……」


「うん。島の人間は神隠しだと決めつけて、探すのをやめてしまった。

土地神の生贄になったなら願ってもないことだと。

でも俺は疑問に思った。

なぜ神隠しが生贄に繋がるのかと。

そして調べた。

島の年寄りや、住み込みが長い多恵さんに聞いたりしてね。

するとあることがわかったんだ」


快さんは立ち上がると窓に近づいた。

カーテンを横に引き、真っ暗な外を眺める。

雨は降っていないというのに、外は暗く濁っていた。


「加岐馬の島民はね、神隠しに対して、神が自ら臨んだ者を自分のものにするためにさらう、という認識をもっているんだ。

昔から他所から旅人が来るたびによくあったことでね、神の生贄となり姿を消したものが増えれば増えるほど、土は豊かに肥えていく、そんな言い伝えもあったくらいに。

実際の根拠もなにもない話なんだけど、古くから住んでる島民は皆そう信じてたよ。

だから綾子さんがいなくなった時も、悲しむよりも皆、どこか嬉しそうだった」
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