地の棺(完)
「初ちゃん、ありがとう。大丈夫だよ。
もし八時過ぎて起きてこなかったら、扉ガンガン叩いて起こしてね」


わざと大袈裟にいうと、初ちゃんは口元を衣で隠して笑った。

和やかな雰囲気のまま、移動する。

四号室と同じ扉の前を、五つ通り過ぎた先に、赤い引き戸の部屋があった。

なんのプレートもないが、ここが食堂なんだと、部屋から漏れて漂う匂いでわかる。


「座席にはネームプレートがありますから、ご自分のプレートがあるお席にお座りください」


初ちゃんは扉の前で足を止めた。


「初ちゃんは?」


「私は食欲がなくて、夕食は断りを入れました」


「体調悪いの? 大丈夫?」


わたしを案内するために無理しているなら申し訳なくて、初ちゃんの顔を覗き込むと、彼女は驚いた表情でわたしを見ていた。

そんなに意外な反応だったのかと思うくらい。

でもすぐに笑顔を取り戻す。


「体調が悪いわけではないので、大丈夫です。
さあ、中でみんなお待ちですよ」


初ちゃんに背中を押され、扉に手をかける。

振り向くと、初ちゃんはにっこり微笑んで背を向けた。

後ろ姿を見送りながら、深く息を吸って一気に吐き出す。

緊張でお腹が痛い。

でも第一印象が肝心だと、覚悟を決めて扉に手をかけた。

この中に姉の恋人がいるかもしないという期待に気を張りつつ、ゆっくりと扉を横に引く。
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