地の棺(完)
そういって三雲さんが右手を上げると、それまで座っていた快さんと雪君が立ち上がった。


「貴方の前にいるのが長男の快。
そして、その隣にいるのが次男の雪。
末の子は体調を崩しているためこの場にはおりません」


快さんと雪君が頭を下げる。

快さんはにこやかに、雪君は無表情に。

なんだか雪君の態度がさっきまでと違う気がする。

わたしを見ようともしない。

ちょっと気になってその横顔を見つめる。

末の子というのは初ちゃんの事だろう。

快さん、雪君、初ちゃんは三雲さんよりも桔梗さんによく似ていた。

顔立ちというよりは、雰囲気が。

桔梗さんは典型的な和風美人だが、快さんも雪君も初ちゃんも西洋人形のような外見で、その肌は透けるように白い。

雪君、綺麗だなぁ……なんて思っていると、自己紹介はまだ続いていたようで、次に雪君の隣に座っていた男性が立ち上がり、ちょっとびっくりした。


年は三十代前半ぐらいで、とても背が高い。
銀色のフレームの眼鏡をかけていて、夏も近いというのに黒いスーツを着ている。

しかし暑苦しいといった感じはなくて、とても爽やかな印象の男性だった。


「彼は子供たちの家庭教師をしてくれている、神原朔真(こうはらさくま)君」


三雲さんに紹介されて男性は会釈し、席に座った。


「次は……」


そこで三雲さんが渋い顔をする。


「あ、俺たちはいいっすよ。とばしてとばして」


「ちょっと、やめなよ、シゲ」


三雲さんは神原さんの隣に座る男性の発言のせいか、不快感を露わに眉間を寄せる。

その様子に、隣の女性が慌てて男性を諫めていた。

男性はオレンジの派手なシャツに黒いタンクトップを着ていて、長めの髪はとても明るく痛んでいた。

日に焼けた肌にシルバーのクロスペンダントをつけており、両手にはごつめの指輪をしている。

もくもくと目の前の料理を口に運ぶことに夢中といった感じで、女性は気まずそうに頭を何度も下げた。


「すみません!
この馬鹿は秋吉茂治(あきよししげはる)、私は岡橋真紀(おかはしまき)です。
快君の大学時代の友人です」
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