地の棺(完)
降り続く闇
シゲさんや真紀さんには、朝食の時間に、土砂崩れで道が通れないことが告げられた。

シゲさんはどうでもいいような態度だったが、真紀さんは明らかに困惑していた。

長期滞在の予定ではなかったのだろう。

亘一さんは話が伝わっていたのか、ただ単に興味がないのか、一言も発せず食事に集中していた。

三雲さんは、旅行者の急な宿泊に備えて、衣料品や日用品の買い置きもあるらしく、必要な時はいつでも申し出るようにと言ってくれた。

でも、緊急事態とはいえ、お世話になりっぱなしというのも肩身が狭い。

そこで多恵さんや千代子さんのお手伝いを申し出たのだけど……


「あらやだ。滅相もない!
私達はちゃんとお給料をもらってるんですよ。
蜜花さんはなにもされなくて大丈夫ですよぉ」


多恵さんに反対された。


「でも……」


食事を終え、二人きりになった部屋で、多恵さんは手を休めることなく豪快に笑う。


「気が引けますか?
与えられることを当たり前だと思ってる若者が多いのに、なんてまぁ、たいした事ですよぉ」


ガハガハと小気味いい笑い声。

トレーに十枚以上の皿を載せ、奥に運ぼうとした多恵さんだったが、ふと足を止めわたしを見た。


「お姉さんの思い出を集めにきたんでしたかねぇ、蜜花さんは」


唐突な言葉だったが、わたしが首を縦に振ると、多恵さんはわたしにトレーを手渡す。

綺麗に重ねられたお皿は、重くずっしりとしていた。

バランスを崩しそうになったわたしを見て、多恵さんはまた笑う。


「柚子さんもね、ここにいる時、よく手伝ってくれたんですよ」


そういう多恵さんの表情がとても優しかった。


「そう、なんですか?」


「ええ。私でよければ、お姉さんのこと、色々お話ししましょうか」


「……! 是非!」
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