地の棺(完)
「……はい?」


ベッドに腰掛けていたわたしは涙を拭い、よろよろと立ち上がる。


「どうぞ、ドア、開いてますよ」


そう答えたが、扉の向こうから返答はない。

誰だろう。

ノブを回し扉を開けると、そこには暗い表情をした初ちゃんがいた。


「先ほどは……すみません。

あの、今、いいですか?」


初ちゃんの目は泣き腫らしたかのように真っ赤に充血し、思いつめた表情をしていた。

真紀さんの事を聞いたのだろうか?

わたしは体を横にずらし、初ちゃんを部屋に招き入れた。

初ちゃんは軽く頭を下げて、部屋の中に入る。


「よかったらここに」


そういってベッドを手で指し示すと、初ちゃんはこくりと頷き座った。

わたしも少し間をあけて、その隣に腰掛ける。

初ちゃんは俯いたまま、なかなか顔をあげようとしない。

わたしも話を切り出せず、室内は沈黙が続いた。

初ちゃんの悲しそうな横顔を見ていると、今朝のやり取りはわたしの勘違いだったんじゃないかと思える。

こんな儚い少女が、あんな悪態をつくなんて。

聞き間違いだったのかもしれない。

初ちゃんに申し訳ない気持ちになりながら言葉を探っていると、桜の花びらのような初ちゃんの唇がゆっくりと開いた。


「……真紀さん、死んだんですか?」


小さな声でつぶやくように言った言葉に、わたしの胸が締め付けられる。

真紀さんの見開いた瞳が脳裏に浮かび、背筋を凍らせるような寒気がして思わず自分の肩を抱きしめた。


「そう、みたい」


自分の目ではっきりと確かめたわけじゃないが、遠目に見ても生を感じられなかった。

真紀さんの瞳を、血の赤さを思い出すと、叫びだしそうな恐怖に襲われる。
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