地の棺(完)
「快坊ちゃん、そんな言い方……」


多恵さんが顔をしか咎めるようとしたので、わたしは慌てて右手を掴み制止した。

快さんは薄い笑みを浮かべると、そのままなにも言わずに階段を下り立ち去る。

多恵さんはぶつぶつと快さんの不真面目な発言に不満を漏らし、その様子を見て神原さんは苦笑した。

わたしも神原さんも口にはしなかったけど、快さんが傷ついていることはわかった。

友人の死を自ら口にすることが、どれだけ辛いか想像することがたやすいから。

わたし達はそれ以上なにか会話するわけでもなく、神原さんは真紀さんの体が無くなった話を三雲さんに伝えに行った。

千代子さんは窓の穴を塞ぐために雨戸を探してくると納戸向かい、まだなにか言いたげだった多恵さんも、夕食の準備のために厨房に向かった。

残されたわたしは多恵さんのお手伝いをしようか、それとも部屋に戻るか迷い、そのまま立ち尽くす。


快さんとシゲさん。

二人の気持ちがわかったから、争ってほしくなかった。

でも、わたしがしたことは、間違っていたのかもしれない。

快さんはシゲさんに、殴られたかったんじゃないかと思ったから。

シゲさんは千代子さんの一言で、真紀さんの生存を期待した。

でも、冷静に考えるとそれは不可能だとわかる。

あの状態で一人で立ち上がれるわけないから。

近くで見た快さんは尚更。

だからシゲさんに期待をもたせないようにした。

シゲさんも快さんもお互いに辛い感情をぶつけあうことで、癒える傷があったかもしれない。


なにをしても、なにを考えても気持ちは暗い闇に落ちていく。

でも、このままここで落ち込み続けてもいられない。

真紀さんの体がなくなったということは、誰かが動かしたということ。

それはなんのためなのか……
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