王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
弥生はあっさりした顔立ちながら、キレイなパーツがこれ以上ない程ぴったりな位置に配置されていて、十分整った顔の部類と言えるはずだ。
着実に年齢を重ねてきた男としての渋さもある。
しかし恋人もなく、マンションの部屋を出るのは週に1度。
訪問者は担当編集の瑛莉菜か、弟のみ。
髪もボサボサでヒゲの手入れも適当な、ゆる〜くだらしない今の格好では、せっかくのイイ男も台無しだった。
瑛莉菜だって、できることならこんな聞き分けのない男の相手はしたくない。
それでも弥生の書く小説がおもしろいのは事実だし、その物語にいちばん惚れ込んでいるのが自分であるという自負は、編集者としてのプライドでもある。
だからこそこうして、新作は書けないと言い張る弥生の部屋にまで押しかけて来ているのだ。
「わかりました。じゃあ、もう一度一緒に考え直しましょう。設定はおもしろいんですから」
瑛莉菜は手にしていたアニメ『結婚しナイト!』のチラシをわきによせ、椅子に座り直して不貞腐れた顔の弥生と向き合った。
「まず、ウィルフレッド・ランス公爵が暗殺されるなんて展開はナシです。彼はこの物語のヒーローなんですから」
「ぶーぶー」
弥生はしたくもない宿題をさせられる小学生のように、だらしなくテーブルに肘をついて唇を尖らせる。