王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「だって俺、本当にわかんないんだよなあ。なんでウェンディがこの男に惹かれるのか」
ウェンディとは、例のウィルフレッド・ランス公爵と恋に落ちるヒロインの名前だ。
文句を言いつつも、瑛莉菜と新作についての話をする気はあるらしい。
「それはほら、ウィルフレッドのかっこよくて……優しいところとか」
「優しいところお?」
弥生はグッと眉間にシワを寄せて、上目遣いで疑わしそうに瑛莉菜を見やった。
「ほんとに女はそんなことで男を好きになったりするかね? 恋ってのは理屈じゃないんだよ。惹かれる理由なんて、言葉で説明できる方が怪しい」
そう言われると、どうしても言葉に詰まってしまう。
人並みに恋愛経験はあるつもりの瑛莉菜だが、『本気で人を好きになる』ということがイマイチわからないのだ。
だけどヒーローとヒロインには必ず惹かれ合う理由があるはずで、読者にも納得してもらえるものでなくてはいけないと思っている。
「おっさんには乙女の恋心はわからんよ」
二の句を継げられない瑛莉菜をよそに、弥生はべたりとテーブルに突っ伏して右手を伸ばす。
そしてテーブルの端に飾ってあった写真立てを引き寄せた。