もう一度、あなたと…
Act.5 始まってみたら…
暗闇の中、身体が痺れたように動かない。
重くて、怠くて、指先一つも自由がきかない。
その身体が急にあったかくなった。

ホッとする様な温かさに、芯から癒やされていく。
動かなかった手足の関節が少しづつ自由を取り戻す。

何かに包まれているのが分かる。
ふわふわとした温かい感じ。
そう言えば、この感触、どこかで似たものを手にした…。


(どこでだっけ…)

ボンヤリする意識の中で、思いを巡らす。
猫を触った時と同じくらい、優しい感じがした。
大きさは猫というよりクマっぽくて…分厚くて…

(…そうだ…あの人の手に似てる…!)

立ち上がる時、手を握ってくれた。
厚みがあって、優しくて、私の知る人の手とは違っていた…。

バチッと目を開けて、前を見る。
見知らぬ男性が寝てる。しかも、裸で……

(は…裸⁉︎ )

ギョッとして顔を覗く。
一瞬、パニクる。誰だか分からない。でも、よく考えたらあの人しか憶えがない。

(た…たからが…)

「…ひかる」

名前だけ声にした。
目を瞑る人の顔が歪む。
イケメンの人の寝顔って、目を閉じててもカッコ良いんだ…と、妙な所で感心していた…。

手を動かそうと肘を曲げた。しっかり握られた指先に光るペアリング。
夢だ夢だと思ってたけど、やっぱり夢じゃない。

私は…昨日、この人と結婚式を挙げた…。

(そうだ…初夜を迎えたらいけないと思って…水を浴びて…でも…ちっとも目が覚めなくて……身体が冷えきって冷たくて…動かなくなって……)

誰かが…浴室に入ってきて、シャワーを止めてくれた……

(それが…彼だった…?)



ハッ!!として自分の姿を確認する。

(う、うそっ!!)

思わず布団の中に潜り込む。
巻き付けるように布団を引き寄せたおかげで、「たからがひかる」が目を覚ました。

「ん…」

寝苦しそうに眉間にシワが寄る。一瞬、動きの止まった瞼が、ゆっくりと開いてこっちに気づいた。


(ひゃっ!)

声も出さずに彼の顔を見返す。
焦点の合わない眼が虚ろに動く。はっきりと誰かを判別した後で、急に起き上がった。

「エリカ!大丈夫か…! 」
「…きゃっ!!」

叫んで丸くなる。目を閉じて俯く私を見て、彼が自分の格好に気づいた。

「あっ…!」

同じように布団に潜り込む。
全裸でいる彼の口から、昨夜のことが説明された。
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