もう一度、あなたと…
Act.6 出社したら…
休暇の明けた翌日、職場へ出社した。

「エリカ!おはよう!」

更衣室で女子達にとり囲まれる。
披露宴に出席してくれた同僚達にお礼を言い、他の女子達からの質問攻めを受け、部署へ向かった。

廊下ですれ違う社員の中に、太一の姿は見当たらない。
そのままどうか現れないで…と祈りながら、総務課のドアの前に立った。
入って左奥に座っていた太一。そこを真っ先に見ようと身構えた。

ドアノブをひねって隙間を開ける。
ドキドキしながらドアを押し広げようとした所へ「たからがひかる」がやって来た。

「一緒に部長に挨拶に行こうと思って」

眩しいスーツ姿を見せつけられる。
私よりも早目に家を出た彼は、既に一仕事終えたらしい。
二人で中に入る。さっきと同じ様に部署の連中に取り囲まれる。
次々とお祝いを言ってくる社員の中に、やはり太一の姿はない。

(同じ会社じゃないのかな…?)

そんな気すらしてくる。
ホッとする様な、寂しい気持ちになる。
26才の私の世界では、太一という人間そのものが、最初からないみたいだ。

どことなく都合がいい気がする。
結婚式からこっち、ずっと夢だという思いが抜けきれないでいる原因。
こうであればいいのに…と思い描く方向へばかり進んでる。
太一がここにいないという事も、ある種それと重なった。

「…そう言えば、部長は…?」

ひとしきり話をした彼が室内を見回した。
上座に置かれた部長と課長のデスク。さっきからどちらも空だった。

「朝イチで会議があるとかで、課長とそっちへ出席中。でも、そろそろ戻って来る頃よ」

時間を確認して舞が答える。

「そっか…じゃあまた後で来るよ」

出直すと言う彼を見送って、デスクに着こうとした時だった。
ドアの外で大きな声が響いた。
戻って来た部長と会ったらしく、「たからがひかる」が大げさに挨拶を交わしてる。
一緒に入ってくる。その方向に視線を向けた。


(えっ…⁉︎)

ドキン!と大きく胸が震えた。
「たからがひかる」と一緒に入ってきた人は、私の知ってる部長じゃない…。

この人は…


(た…いち…)


目を疑ったまま固まった。
32才の私にとっての太一は、総務課の課長で、部長の下でこき使われる中堅社員だった。
デスクの前に立ち竦み、何も言えなくなってる私に視線が注がれる。
見慣れた顔が微笑んで、こっちに近寄って来る。

「よぉ!おはよう、高橋くん!…じゃないな、今日から宝田夫人だったな!」

聞いたこともない明るい声で挨拶された。
一瞬、戸惑う。
無言でいる私に気づき、「たからがひかる」が促した。

「エリカ…!」

返事!返事!…と口をパクパクさせる。それで慌てて頭を下げた。
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