もう一度、あなたと…
Act.8 怒った…⁉︎
翌朝、目が覚めると、ひかるが隣に寝ていた。
ギョッとして起き上がる。パジャマはきちんと着てる。
だけど、どうして彼が横にいるのか、理由がさっぱり分からない。

(どうして一緒に寝てるの…?)

整ったままの隣のベッドを見つめた。
何があったか思い出せない。

(昨日、お風呂上がりに髪を乾かしてもらって、それで……)

髪をかき上げて思いついた。

ベッドから抜け出て、洗面所に直行する。
鏡に向かって後ろ向きになる。チラッと後ろを振り返ると、背筋に赤い斑点が見えた。

ドキン!と胸が高鳴る。
あれは夢なんかじゃない。

(ひかるに後ろから抱きしめられて、キスされて、それから…?)

記憶がない。
こんなに跡を付けられる程、私は彼を嫉妬させたみたいなのに…。

(私が…お風呂入るの…断ったから…)

32才のエリカは、太一と何度も入ってる。
記憶が混乱するまでのエリカも、きっと彼と入ってたと思う。
なのに、今の私は…ひかるを拒絶ばかりしてる。
妻かどうかも分からないような生活を、私は彼に強いている…。

(ダメだ…こんなんじゃ…いずれダメになる……)

分かってるのに…
思い出したくないのに……

消えてくれない。
太一との最後の夜。

擦れる様に繋がった後、彼が私に言った言葉ーーーー





『もう…やめよう…こんなこと、虚しくなるだけだ…』

背中を向けて呟かれた。
潰れるような胸の痛みを感じて、太一に聞き返した。

『やめるって…何を?』

無粋な一言だったと思う。でも、どんなに痛みや虚しさを感じても、太一と繋がりたいという思いがあった。

『どうせ、子供もできないんだし…やってもやらなくても一緒だろ⁉︎ 』

言い捨てるようにして、部屋を出て行った。
あれからずっと、太一は私を抱いてくれなかったーーー。




昨日のことを思い出した。
太一の顔をした部長に受けたセクハラ。
同じ人の手と口から、私は二度も傷つけられた。
それなのに……

(最低だ…私…)

ひかるのことを侮辱してると思った。
今を現実だと思っていながら、太一との事ばかり考えてる。
嫌な現実を見せつけられた筈なのに、彼を受け入れられもしないーーー。

(だからこんな…キスマーク付けられるのよ…)

思い知れ…と言わんばかり。
でも、誰が彼の立場でも、きっと同じことをするに違いない…。
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