坂道では自転車を降りて
文化祭
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 文化祭初日、クラスの劇は2日目だったので、1日目は終日自由時間だった。2階にある3年生の教室は文化部活動の展示に使われてしまうため、舞台出演者にあてがわれた技術工作室に鞄を置いて、校内をうろつく。どうせなら多恵と回ろうと一緒に回り始めて、俺はすぐに後悔した。彼女は美術部とクラスの展示に加えて、文芸部や漫画研究会にまで寄稿していた。顔を出さねばならないところが多すぎる上に、科学部や数学部ではコアな質問をして部員と一緒に盛り上がる。俺は完全においてけぼりだ。
 彼女はあまり社交的じゃないから、友達が少ないような気がしていたのだが、実はオタクな友達は沢山いるらしい。彼女のクラス展示の当番を機に、別行動に切り替えた。

 なんかな~。ちょっとした孤独を感じながらぶらついていたら、同じく孤独な顔をした飯塚を見つけた。2人で展示を回る。
「そういえば、衣装、なおったの?」
飯塚は明日のクラスの舞台の主演、シンデレラだ。一昨日、女子がせっかく作ったドレスの裾を踏んで破いた。
「ああ、今朝、試着した。裾が短くなってた。」
「がんばれよ。主演女優。」
「なんか、落ち着かないなぁ。明日出番があると思うと。」
「そりゃそうだろうな。」

 飯塚が写真部の展示室へ行こうとしつこい。多恵の写真が展示されているという話をどこからか聞きつけたらしい。今西とハチ合わせるかもしれないし、俺はあまり気が進まなかったが、多恵の写真を見たくない訳でもない。仕方なく行く事にした。あの日、織田の撮った写真だろうか。

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