キスは目覚めの5秒後に
イジワルな(仮)上司
そして、翌日。
ピピピとアラームが鳴る音が聞こえてきて、目を覚ました。
耳慣れた携帯アラームとは違う音で、その出所を探してみれば、ベッド脇のサイドテーブルの上の目覚まし時計が耳障りな電子音を出していた。
肌触りのいいふかふかの毛布。
カーテンのない小さな窓。
壁から天井までも、目が覚めるような白一色で塗り潰されている。
飴色の小さな整理ダンスとベージュ色のフロアスタンドが一つずつ置かれた超シンプルな部屋。
寝起きの頭は、ここがどこだかわからなくて混乱した。
「えーと、そういえば・・・」
確認するようにベッド傍の床を見れば、大きな旅行かばんが無造作に置いてあった。
昨夜彼がここに運んでくれたままだ。
「やっぱり夢じゃなかったのね。私、橘さんと契約したんだっけ」
可愛い暖色系のインテリアだったホテルの部屋とは全く違っていて、自分の油断が招いた事態を再度噛みしめる。
ベッドからおりれば、利き足にズキン!と痛みが走って悔しさが込み上げた。
「傷心を癒すために来たのに、更に傷を増やしてどうするのよ。私、本当にバカね」
昨日行った病院の診断では、怪我は打撲が主で全治一週間程度とのことだった。
あの中年女、今度会ったら絶対文句言ってやる!
文句だけじゃ気が済まないだろうけど!
サッと着替えを済ませて部屋を出ると、コーヒーの香ばしい香りが鼻を擽った。
私の契約主である彼、橘宗一郎さんが食卓テーブルでコーヒーを飲みながらタブレットを弄っている。
昨夜はすごく遅かったのに、もう起きている。
「おはようございます」
「ん、おはよう。よく眠ったか?」
「はい。お陰さまでゆっくり眠れました」
「それは上々。朝はパンとコーヒーでいいか?」
「はい。あ、洗面お借りします」