キスは目覚めの5秒後に

シェービングクリームや整髪剤が置かれた洗面台。

男性化粧水を手に取って見ると北欧メーカーのもので、全部新品同様だった。

昨夜食事しながら話してくれた『スウェーデンに来て、まだ10日程度だ』というのは本当らしい。

まあ、彼が私に嘘を吐く理由なんて何もないのだけれど・・・私は少し人間不信に陥っているみたいだ。

鏡に映る自分の顔の表情はかなり沈んでいて、しっかり何度も洗ったあと化粧水をつけた手のひらでペシペシ叩いて肌に染み込ませつつ気合いを入れた。

いくら嘆いたって怒ったって大事なバッグは返ってこないのだ。

今は警察からの連絡をひたすら待って、結んだ契約をしっかり遂行して、橘さんに満足してもらうことに集中しよう。


「よし、ファイトだ、私!」


洗面から出るとパンが焼けていて、おまけにベーコンエッグも置いてあった。

使われている食器がアラビアのもので、単純にも気分が上がる。


「どうぞ」

「いただきます。橘さん、料理出来るんですね」

「まあ、一人暮らしが長いからな。これくらい当然だろう。美味いか?」

「はい、美味しいです!」


本当ならお金がなくて食べられなかったはずの食事。

ありがたくいただいていると、コーヒーカップの横に鍵とお札が置かれた。


「俺は先に出るから。今日は、大使館に行くんだろう?タクシーを使えよ。これ、電話番号」

「はい、わかりました。手続きが終わったらすぐに行きます」

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