ナイショの恋人は副社長!?
親近感


歳を重ねても、心のどこかでは夢を見がち――というものが女子なのかもしれない。
 
そんなふうに考えるタイプではなかったはずの優子が、簡単に乙女脳に変換させらた昨日の一件。

(物語のようなことって、起こりうるんだ)
 
更衣室で着替えをしながら、敦志の笑顔を思い出し、頬を薄らと赤く染めた。

「ねぇ、聞いて! さっき、偶然、社長を見掛けたの!」
「きゃー! 本当に!? いいなぁ! 挨拶とかした!?」
「それが、もたもたしてるうちに行っちゃって……」
「えーっ! 勿体ないっ」
 
他部署の女子社員二名が、優子のロッカーの裏側で盛り上がる。
着替えが途中の優子の耳に、勝手に会話が聞こえてきた。

「だって、やっぱりなんか迫力あるよ。簡単になんて話しかけられないって」
「んー、確かに。そういえば、早苗は副社長派って言ってたなぁ。副社長の方が、親しみやすい雰囲気してるからって」
 
その内容が、突然敦志へと移ると、自然と耳を澄ませてしまう。

「でも、雰囲気が優しくても、結局は社長と同じで、雲の上の存在だよねー。きっと、話題とか価値観とか色々違うだろうしね」
「見初められるとか、そんなシンデレラ的展開はないってことか」
 
ふたりの社員は、失笑しながら更衣室を後にする。
優子は彼女たちが出て行ったドアをしばらく見つめた。

(そうだよね。たまたま、夢のような出来事が起きたところで、この先に続くシンデレラストーリーなんて、あり得ないんだった)
 
高揚していた気持ちが一気に急降下する。
優子は、ロッカーの扉にある鏡に顔を映すと、戒めるような視線を自らに向けた。

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