寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 五章

 テオとセレナが結婚して二週間が経ち、祝福の余韻が続いていたミノワスターの城下は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
 その間、セレナは王太子妃としての勉強を続けながら、国王陛下や王妃とともに国内の視察に同行した。
 広い領土を誇るミノワスターは五つの領土に分かれ、その領土を治めているのは国王が派遣した優秀な騎士たちだ。
 以前は各領土を有力貴族たちが治めていたが、己の繁栄にばかり気を取られ、領民たちを犠牲にする事が多かった。
 慢性化していた水不足のせいで生活に困窮している領民たちを、顧みる事もなかった。
 ランナケルドから定期的に水を運んでも、領民皆が生活に困らないほどの量ではない。
 長い歴史の中では飢饉も起こり、多数の領民が命を落としたというのに、貴族たちが領民たちの生活に気を配る事はなかった。
 その結果、三代前の王の時代、王が任命した騎士たちが各領土を治める事になったのだ。
 貴族たちから大きな反発はあったが、それでも国民たちの命を守るため、ランナケルドの騎士団の力も借りながら国民たちを守った。
 それ以来、ミノワスターの王は代々、騎士たちだけに任せるだけでなく自ら各地を視察し、領民たちの生活を見守っているのだ。
 いずれテオが王位に就いた時、セレナが担う責任は大きい。
 その時に備え、国王夫妻はセレナを視察に同行させたのだ。
 この二週間で二度視察に行ったセレナは、どちらの領民からも歓迎された。
 その温かさに触れるたび、セレナはこの国のために力を尽くそうと思う。
 そして、さらに力を注いでいるのがミノワスターの歴史の勉強と王太子妃としての教育だ。
 結婚式の翌日から現れた数人の教師たち。
 王族と縁の深い貴族たちが、入れ替わりやってきてはセレナに教育を施している。
 ミノワスターの歴史についてはかなり前から勉強していた事もあり、今更覚えることは少ない。
 教師である伯爵家の女性は「優秀すぎて、これ以上何を教えればいいのかわからないわ」と言って苦笑したほどだ。

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