東の空の金星
その4。機嫌の悪いシマリス。
夏だ。

真っ白な入道雲が海の上にもくもくと浮かんでいる。

昨日、遥香さんは陣痛が始まって慌ててタクシーで病院に行ったのに
だんだんと陣痛が収まってしまい、
病院から帰されてしまった。

仕切り直し。と言われたようだ。

もう、いつ産まれた来ても良いのに、のんびりした赤ちゃんだ。

周りの大人たちは一喜一憂で、オーナーまで早退して来ていたのに…

(まだ産まれないってわかると、仕事に戻ったけれど。)

まあだだよ。とかくれんぼをしているつもりなのかもしれない

うーむ。

いつ産まれるかわからないけど、

とりあえず、店を開けないと…



開店前に店の電話が鳴って、
マスターが慌てて電話に出る。

私もマスターの顔を見るけど、マスターは横に首を振る。

遥香さんじゃないらしい。

いつもならない電話が鳴ったのに…

人騒がせな電話だ。


「はい。お久しぶりです。はい。6名様ですね。
はい。お待ちしています。」と電話を切った。

「シマちゃん。大切なお客様。
2~3ヶ月に1回くらいここのランチを食べに来る。
桜子さんの主治医だった、
いわゆるホスピスっていうところの先生達。
6名さま。真ん中のテーブル、貸切にして。
あと、駐車場の扉を開けといて。
大和の車、仕事の時無いから、そこに車を入れるんだ。」

と私の手に駐車場のリモコンを渡した。

…特別なお客様。

こんな忙しい時に!

と思ったけど…私はいつも通りで、変わりがないんだけど。

つい、家族のようなつもりで、新しい命を心待ちにしている自分がいるのだ。
< 52 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop