公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
企み合うふたりは、海風に吹かれて口づける

◇◇◇

旅立ちから、十日が過ぎた。

ここは王都エルゴーニュ。ゴラスからは馬車で丸二日もかかり、国の南に位置している。

海に面した港も山もある美しくも巨大な街で、その正確な大きさは、まだ私には計り知れなく、オルドリッジ公爵邸の周囲しか把握できていない。

部屋数は八十ほどの三階建てのこの屋敷で、私は使用人たちに行儀見習いの侍女として紹介され、二階の南西に立派な居室が与えられていた。


六時の朝の鐘の音を聞きながら、私は身支度を始める。

キャビネットを開けると、そこにはオリーブグリーンや明るい水色、クリーム色などのワンピースが十数着かけられていて、これを着るようにと言われていた。

他の使用人女性と同じような、簡素な服の方が着慣れていて、似合いそうだとも思うけれど、私はメイドではないのだから、少々見栄えのする服を着る必要があるみたい。


オリーブグリーンのワンピースを選んで着て、そのうえに白いエプロンをつける。

洗面鉢で手と顔を洗い清めたら、自室を出て一階に下り、北側の通路を通って別棟へ。

ここは使用人たちの寝起きする居室があり、掃除用具置き場や洗濯室、厨房もこの棟に設けられていた。

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