生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

15.生贄姫は体験入隊を行う。

 第二騎士団での訓練内容はかなり厳しく、そして充実していた。
 基礎体力や持久力を上げる目的の鍛錬から始まり、一対一、一体複数、対魔法戦、対魔物戦を想定した実践的訓練。
 ローテーションをしながら指揮役が変わり、戦闘戦略を組み立て方を学んだりしているうちにあっという間に時間は過ぎていった。
 リーリエは久しぶりにくたくたになるまで動き、汗だくになって地面に横たわる感覚に高揚を覚える。
 今自分の中にあるのは、楽しかったの一言に尽きる。
 リーリエは自身の特異スキルのおかげで現存する一通りの武器が扱え、その中でも相性のいいものは小さな頃からかなり訓練を積んできた。
 その全てを賭して全力で挑んで、今完全敗北を持って地面に倒れている。

「ふっ、あはっ」

 込み上げてくる笑いに息をするだけで肋骨が軋む。吹き飛ばされた衝撃で何本か骨が逝ったらしい。

「あー負けちゃった」

 まだ、全然届かない。
 なのに気分は清々しいほど晴れていて、頭の中は空っぽになった。

「生きてる? リンちゃん」

 仰いでいた空が遮られ、心配そうな顔が覗く。

「ゼノ様、流石は副隊長でございますね。完敗です」

 動こうとすると身体が悲鳴をあげるので、しばらく立てそうにない。
 寝そべったままですみませんと笑うリーリエに申し訳無さそうな顔をするゼノ。

「ごめん、リンちゃん強すぎて手加減出来なかった。隊長に妃殿下の護衛任されるくらいかだから強いとは思ってたけど、まさかここまでとは」

「何をおっしゃいます。紅蓮の騎士の炎の斬撃一打も出さなかったじゃないですか?」

 火属性のゼノは模擬戦で一度たりとも魔法を使わなかった。純粋な剣術のみで負け、しかも余裕で立っている。
 ここまでくると悔しいという感情すら湧いてこない。

「あれここで打ったら訓練場ごと壊れるから」

 苦笑しながらリーリエの隣に座ったゼノは、

「本当にキミ、何者?」

 と笑顔を消して真顔で尋ねてくる。

「ただの侍女兼護衛です。それよりも痛みが限界なので、バッグ取ってもらえませんか?」

 ゼノにこれ以上探られるとまずいので、リーリエは笑顔で話題をそらすことにした。
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