生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「で、お嬢さんは何者ですか?」

 その一言でリーリエを放置していた事を思い出したテオドールは視線をリーリエに向ける。
 前に出たリーリエに騎士は爽やかな笑顔を向け、

「初めまして、第二騎士団へようこそ。可憐なお嬢さん。俺はここで副隊長をしているゼノ・クライアンと申します。お名前をお伺いしても?」

 と騎士らしい所作でそう告げた。
 リーリエは前世の記憶を辿る。
 ゼノ・クライアン。クライアン伯爵家三男で紅蓮の騎士の異名を持つ戦士だ。
 彼の剣の腕は若くして副隊長に就くだけの実力を持ち、連撃の威力は凄まじく第二騎士団をテオドールと共に支える人気キャラだった。

「初めましてクライアン卿。私はリーリエ妃殿下専属侍女兼護衛をしております、リンと申します。新参者のため本日は稽古をつけていただきたくお邪魔しております」

「へぇーかわいいのに護衛までするの? 有能! あ、卿とかいらないから気軽にゼノって呼んで。うちの部隊極端に人数も貴族も少ないし、身分とか邪魔だし」

 背筋を正し、事前に決めていた挨拶をしたリーリエに対し、一瞬で騎士らしい対応を崩し人好きのする笑顔で握手を求めるゼノ。
 が、リーリエが握手を返す前にテオドールからゼノに鉄拳が落とされた。

「うちのにちょっかいかけるな」

「ちょーっと女の子とお近づきになりたかっただけじゃないっすか。隊長は綺麗なお姫様嫁にもらったんでしょ? 深窓の令嬢、才色兼備の聖女って噂じゃないですか!」

 チラッと視線を寄越したテオドールと目が合い、気まずくなったリーリエは目を明後日の方向へそらす。
 どれだけ尾鰭付いてるんだよと軽く目眩を覚えたリーリエは、絶対本人だとバレないようにしようと固く決意する。

「そーんなキレイな嫁さんいて新婚なのに隊長は何が不満なんですか。全く家に帰らないとか、奥さんマジでかわいそう」

 居た堪れないがその点については激しく同意だ。

「俺なら毎日定時で帰って花束送るね。リンちゃん、リーリエ妃殿下寂しがってない?」

 それ旦那さまの前で本人に聞いちゃう? とは言えないリーリエはそうですねーと思案し、

「主人についてお答えする事はできませんが、せめて週一でもご一緒にお食事される姿が見られるといいなーと侍女としては願っております」

 せっかくなのでこの機会に便乗した。

「……努力はする」

 テオドールはバツが悪そうにリーリエを見て、ため息混ざりにそう答えた。
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