生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

33.生贄姫は暴かれる。

「早速だが、リーリエ。お前に剣術は向いてない」

 見回りから戻ってきたテオドールは回復したリーリエと向かい合って座り、開口一番にそう言った。

「指導以前に元も子もない発言ですね、旦那さま」

「事実だからな。動きを見る限り、基礎は十分に積んでいる。でも、長剣を使いこなせていないどころか持て余して無駄な動きが多い」

「旦那さまの容赦ない発言に私ちょっと泣きそうですよ?」

 一応これでも8歳から10年以上鍛錬を積んでいるのだが、テオドールの容赦ない酷評に凹むリーリエ。

「私は風、水魔法駆使の後方支援タイプですから、旦那さまの様に前衛で長剣を振るうのは」

「違うだろう」

 リーリエの発言を遮ったテオドールは青と金の瞳を細め、リーリエの翡翠色の瞳を射抜く。

「リーリエは生粋の近距離戦ソロプレイヤー。長剣のような重量のある武器も型にはまった戦闘スタイルも向かない、即興型。俺をこの手のことで謀れると思ったのか?」

 リーリエは息をのみ、沈黙する。この場合の沈黙は肯定でしかないと分かっていながら、リーリエは言葉を紡ぐことができない。
たった1回、それもリーリエ本来の武器を一切使用しない状況で全部見破られた。

「……本当に、お話になりませんね」

 これが数多の戦場を駆け抜けた死神の異名を持つテオドールの実力。
 戦闘技術において圧倒的強者の前では、リーリエなど赤子同然なのだろう。

「確認をしておきたい。何のために剣を取る?」

「答えなくてはなりませんか?」

「じゃあ、聞き方を変える。長剣でなければリーリエの目的は達成できないのか?」

 真っ直ぐに問われてリーリエは言葉に詰まる。
 誤魔化しようもなく、見透かされていると悟った。
 すでにある程度気づかれてしまっている以上嘘を重ねるのは誠実さに欠ける。
 何より、テオドールの誇りである剣術を利用し侮辱する行為は、リーリエの推しを愛でる矜持に反する。

「ごめん、なさい」

 どこまで話せばいいのか、どこまで伝えても大丈夫なのか判断がつかず、出てきたのは小さな謝罪の言葉だけだった。

「俺は怒っているわけではない」

 ふっと息を吐き出すように告げられた言葉とともに、テオドールを取り巻く雰囲気が和らぐ。

「話したくないことは話さなくていい。ただ、俺が力になれることであれば、言って欲しい」

 延ばされたテオドールの手がリーリエの頬に触れ、指先で目の下を軽く撫でる。
 化粧でごまかしても分かるほどの疲労。
 いつもならこんな風に近づけば出てくる軽口すら吐けないほどに、リーリエが参っているという事実。
 接触を避けていた当初ならいざ知らず、関心を持ってしまった今、テオドールが気づかないはずがなかった。
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