クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
目障りで、愛惜しくて
 この男と出会ったのは大学だった。一回生のときのゼミが同じ。同期といえば親しい感じがするけど、ゼミには二十人ほどの学生が所属していたから、最初は顔見知りになるのさえ時間がかかる。

 けれど、彼は特別だった。

 桐生幹弥。誰もが名前を一度や二度聞いたことのある建設業の国内最大手、桐生建設コーポレーションの跡継ぎで、それは入学した頃から話題になっていた。

 彼が新入生代表の挨拶を務めたことも大きな要因だった。

 ざわつきが収まらない中で進む大学の入学式。けれど彼が壇上に立った瞬間、会場は水を打ったように静まり返った。

 着るというよりは着られている感の強いスーツ姿の新入生が多い中、彼はきっちりと上質なスーツを着こなし、落ち着いた低い声で型通りの挨拶を始めた。

 すらりと背が高く、無造作な黒髪に色白で整った顔立ち。スポーツ系よりは文化系、そんな印象。頭が良さそうなのが一目でわかる。

 でも根暗とかそういうことではなく、人を惹きつけるものを彼はもっていた。会場は先ほどとは違う意味でどよめきが起こる。

 私もその中のひとりだった。でも、それは珍しいものを見たとか、そんな感じ。彼が同じゼミに所属していたとしても、特段興味もなかったし、近づこうとも思わなかった。

 彼と私とでは住む世界が違っていたし、なにより彼の周りにはいつも人がたくさんいたから。華やかで綺麗な女子、利発そうで活動的な男子。

 注目されることにも慣れているのだろう。彼はいつも笑みを絶やさずに真面目に相手をしていた。口を開けば、意外にも口調は軽快でユーモアにも富んでいる。それが彼の人気にさらなる拍車をかけた。
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