クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 結局『家に帰りたくなくて』と言い訳してここに連れて来られたのに、私は彼の部屋に泊まることはしなかった。

 嫌だった。残したくなかった、自分がここにいたということを、誰にも悟られたくない。本人である幹弥でさえ。後から全部夢だったと思えるなら、それでいい。

 それなのに、事が終わった後、彼は私の髪に優しく触れながら『金曜日の夜は、基本空けといてあげるから、自棄になったりするくらいならまたおいで』と言ってきた。

「誰が」「冗談じゃない」「そんなつもりじゃなかった」「今、この状況でさえ間違いなのに」

 いくつもの言葉が浮かぶのに、どれも声にならない。葛藤している私に対し、幹弥はおかしそうに笑っている。そして私の眉間にそっと指を伸ばしてきた。

「女の子なんだからそんな深い皺を寄せて難しい顔をするのはやめろって。どうせろくなことを考えてないんだから。……まぁ、可愛いけど」

 続いて唇が落とされる。そうやって、私のことならなんでもわかる、という口調なのが気に入らない。

 けれど、嫌なのにはっきりと拒めないなんて。こんなにもあっさりと張っていた予防線は越えられる。こうしてまた彼の毒にあてられてしまった。

 でも、それはこのことがきっかけなんかじゃない。もうずっと前、きっと十年も前から、私は彼の毒に侵されている。

 彼の枕に顔を埋めたまま、私はなにも返事しなかった。けれど、それは肯定だ。

 こうしてまた、彼と週に一度、決まった場所で会う関係が始まってしまった。
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