何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「にしても、すっごい人やなー!」

もちろんりんも、即位式を見ようと広場まで足を運んでいた。
しかし、この人だかりの中で、もみくちゃにされながら、苦労して何とか広場までたどり着いていた。

「そういえば、天音もおるんかなー?」

りんは昨日会った彼女の事が、まだ気になっていた。そして、もしかしたらここでまた会えるかもしれない。そんな事を期待しながら、独り言のようにつぶやいた。

パンパカパーン
その時、大きなファンファーレが広場に鳴り響いた。

「あなた…。今、不吉な名前口にしたでしょ。」
「ハ??」

りんは突然隣に立っている、見知らぬ人に話しかけられ眉をひそめた。

「…あんたの格好の方が怪しいで。そんな風に顔を隠して…。」

りんの隣に居た人物は、少しくすんだ白い布で作られたマントをまとって、顔はフードで隠れている。いかにも、その姿をさらしたくないといった出で立ちは、どこからどう見ても怪しい。
しかし、声からしてその人物はおそらく女…。
りんはその怪しげな人物を凝視した。


ワー!!
パチパチ
そして次の瞬間、周りが歓声と拍手で包まれた。

金の刺繍のほどこされた立派な衣装と、青いマントを身に着けた天使教が、城の中から出てきて、一歩また一歩、広場の中心へと向かう。

…アイツもここにいるのかな……。

天使教である京司は、なぜかこの場には似つかわしくないそんな事を考えながら、歩を進めていた。
その拍手や歓声は、彼の耳には届いていない。
正直こんな即位式、彼にとっては何の意味もない————。
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