何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

パサッ
その時、りんの隣に立つ人物が、頭に被っていたフードを下ろした。

「なんや、かわいらしい姉ちゃんやないか。怪しい格好やから、反乱者か何かかと思ったわー。」

そこに現れた顔は、20歳前後のショートカットの黒髪の女だった。全く笑わない、切れ長の鋭い目がクールな印象を与えている。
りんは、そんな彼女の顔をマジマジと見つめた。

「私の顔より、あっちを見たら。」

じろじろと自分の顔を見つめるりんに対して、彼女は明らかに怪訝な表情を見せて、そんな言葉を冷たく言い放った。

「わいは、男には興味ないねん。」
「あら、彼はこの国のこれからに必要な人でしょ。」

りんがいつものように、二ッと人懐っこい笑顔で笑ってみせたが、彼女はスッと、天師教のいる方へと視線を移した。
どこか冷たい印象のその声が、りんの鼓膜に残る。

「それより、天音が不吉な名前ってどういうこっちゃ??」
「…さあ。」

りんは持前の人懐っこさで、先ほどの言葉の意味を彼女に問うが、彼女の視線は真っすぐ天師教に向いたまま、こちらは見ない。

「姉ちゃん、天音知ってんのか?」

好奇心旺盛なりんは、天使教の即位式よりも、このミステリアスな女の方に、興味深々だった。
今の所、全くと言っていいほど、りんは天使教の方を見ていない。

「さあ。」
「はぁーー?」

しかし彼女は、はぐらかすばかりで、りんの質問には真面目に答えようとはしない。

「ふーん。でも、わいの勘は当たったようやな。」
「…勘?」
「そうや!」
「それはどうかしら。」

ここでようやく、彼女はどこか冷たい視線を再びりんへと送った。

「勘なんて、当てにならないものよ。」
「へ…?」

まるで雪女にでも睨まれたかのように、りんは凍り付いたように固まった。

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