追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
第四章


◇◇◇


 ――カラン、カラン。
 数組のお客様で賑わう店内に、新たなお客様が訪れた。お客様は、帽子を目深に被った大柄な男性だった。
「いらっしゃいませ」
 帽子のつばに隠されてその表情は窺えないが、なんだか落ち着かない様子だった。雰囲気から察するに、年齢は若そうだ。
「……」
 男性は出迎えた私には答えず、探るように店内を見回していた。
 カフェのお客様は圧倒的に女性が多い。この店も例にもれず、お客様の大部分が女性やカップルで、カーゴを除けば若い男性一人の来店はとても珍しかった。
 私としては男性のお客様も大歓迎なのだが、やはり男性が一人でカフェに足を運ぶのはハードルが高いのだろう。
「どうぞ、お好きな席にお掛けください。お冷とおしぼりをお持ちします」
 私は男性の様子を、来店の気恥ずかしさからと考えて、あえて過剰な接遇を控えた。男性は店内壁寄りの席を選んでそそくさと腰掛けた。
 帽子で顔を隠し、キョロキョロと周囲を窺う男性の挙動は、普通に考えれば不審だし、怪しい。
 だけど私は気恥ずかしさを押して来店してくれた事を、むしろありがたいと感じていた。
「お待たせしました」
「……」
 私がお冷とおしぼりを男性のテーブルに置けば、男性は無言のまま広げたメニューブックを指差した。
「ご注文はストロベリーパイとアイスクリームの盛り合わせと苺ミルクでよろしいですか?」
 男性は、私が繰り返した注文に頷く事で同意した。相当にシャイなのか、この後も男性が声を発する事はなかった。

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