追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 ただ、商品には満足がいったようで、男性はすごい勢いでストロベリーパイと苺ミルクを平らげていく。その姿に私の頬が緩んだ。
「1200エーンになります」
 会計の際、ふと、男性が広げる財布に目が留まった。
 ……え!? この財布は!!
「あの、お客様はもしかしてセント・ヴィンセント王立学園の卒業生ではありませんか?」
 気付けば、私は男性に向かって声を掛けていた。
 この財布は、セント・ヴィンセント王立学園の一年次の終了記念に生徒らに配られる物だ。私は一年次終了の直前に退学し受け取れていないが、学園案内に載っていたデザイン性に優れたそれを見て、少し羨ましく思っていたのだ。
「っ!」
 ところが男性は私の声掛けにひどく焦り、銭受けに1200エーンを置くと逃げるように店を出ていった。
「あ、ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」
 男性の背中に慌てて声を張りながら、私は内心でとても後悔していた。久し振りに見たセント・ヴィンセント王立学園の校章に、私はつい、懐かしさに突き動かされて問いかけてしまった。
 だけど、男性は入店時から一貫して話しかけられたくなさそうだった。お客様には気持ちよく店を後にして欲しい。懐かしいからといって安易に声を掛けてしまった事が悔やまれた。


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