追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

「シャワーを浴びてくる」
 バスローブを羽織ると、俺は廊下の奥のバスルームに足を向けた。
「それからカーゴ! いくら田舎とはいえ、どこに人の目があるか分からねえんだ、獣の姿であまりふらふら外に出るな」
 すると廊下の途中で、ルークが俺の背中に向かい、思い出したように付け加えた。それは本来なら、一番の憂慮事項となる内容だった。
「ルーク、せっかく忠告をしてもらったのにすまないが、俺は次の雨降りも出掛ける。行くと約束をしたんだ。もちろん人目には十分に注意を払うから心配はいらん。とにかく、そういう事だから俺の帰りは待たんでいい」
「ほー、そうか……って、オイ!? 行くってどこにだ!? いや、それよりも、獣化してる姿で誰となんの約束をしたってんだ!?」
「今はまだ言いたくない。時期が来たら言う」
「は!? オイ、待てよカーゴ!」
 俺はルークの「待て」には取り合わず、バスルームの扉を閉めた。
 本来なら、従者のルークには行き先を告げるべきだと分かっていた。だが、告げるわけにはいかなかった。俺がアイリーンに「ネコちゃん」と呼ばれていると知れば、やつがどんな反応をするか……。そんな事は火を見るよりも明らかだった。
「やはり、ルークには言えん」
 俺は脳裏に浮かんだルークの姿を、泡と一緒にシャーワーで洗い流した。腹を抱えて笑い転げるルークは排水溝に消えた。



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