北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
-決河-
 猫はいた。断言する。
 いまはもう飼ってないなんて言われたけれど、この家にはたしかにいた。
 住み込み家政婦をやることになってから、ほとんど1日中を家のなかで過ごした。だからわかる。
 小さな物音や、影の名残。姿を見なくても、声を聞かなくても、昼夜を問わず近くにいてくれる気配には、触れたいほどに、あたたかさがあった。
 そのハチミツ色の瞳は、とろりと熱を帯びた光を発して、
 なぜだかちょっぴり、ぞくっとする。
< 1 / 233 >

この作品をシェア

pagetop