翼のない鳥

ゲーム、スタート



水無瀬 司side


「律の馬鹿!」

泣きそうな声だな、と思った。
美鶴の表情は角度的に見えなかったけど、多分、同じように泣きそうに歪んでるんだろうなと思った。

パチン!と乾いた音が鳴って、美鶴は身をひるがえした。


「ちょ、美鶴おい!」


真秀が焦ったような声をだす。

コイツがこんな声するの、珍しいよな。


―――しかも、女相手に。


色々と思うところはあったが、まあ今考えることでもないか、と隅に置いた。


それよりも。


視線の先には、絶世の美少年。

・・・近くで見ると、やっぱ綺麗だな。

片割れである美鶴も驚くほど綺麗ではあるけれど、その人懐っこさや明るさ、ちょっとドジなところやガサツさから親しみやすさを感じられる。


けど、弟の方は真逆。

周囲に向けるのは常に無表情。

そしてそれは唯一、美鶴に対してのみ崩される。

今の彼からは、さっき見た、美鶴に向けられた優しい笑みが信じられないほどだ。

白磁の肌は赤く染まり、痛々しい。

作り物みたいな、現実離れした美しさをもつ彼は、頬の痛みにほんのわずかに顔を歪めたが、すぐに何もなかったように無に戻った。


「ちょ、お前何考えてんだよ!」


そんな弟に真っ先に突っかかったのは、真秀。
頭に血が上りやすいからなあ・・・

さてどうしたものかと悩んでいると、弟が口を開いた。


「・・・水無瀬、司。」


「無視すんなやテメェ!」

真秀を無視して、俺の名前を呼んだ彼は、本当に何を考えているのだろう。


「うん、何かな?」



心に渦巻く疑問は、表に出さない。

あくまでにこやかに。
穏やかに。


俺はここの、トップなのだから。


< 36 / 69 >

この作品をシェア

pagetop