わたしたちの好きなひと
第2章『三都ものがたり』
 ハッピバースデー トゥ ミィ

 お弁当を食べおわって。
 ハミングしながら教室のうしろのゴミ箱に、コーヒー牛乳の紙パックを捨てたとき。
「稲垣…いるかぁ?」
「……ぁ」
 廊下から聞こえたその声に背中が震えた理由も。
 そのぶっきらぼうな声が誰のものだかわかった理由も。
 誰にも悟られないように深呼吸して。
「…はい?」
 半分開いていたドアをゆっくりと全開に押し開けた。

 最初に目にとびこんできたのは、恭太の背中。
 それから――…
 184センチの恭太の頭の上で、ぱこぱこハネているサッカーボールと、廊下にあふれているギャラリー。
  「…じゅーはーち、じゅうきゅーう……」
  「きゃー、にじゅう!」
 恭太を取り巻いているのは、いつもベンチで恭太を見ている子たちだ。
  「(こん)くん、がんばってぇ」
 自分がいま、同じことを心で思ったなんて絶対に言えないけど。
 わたしも見入ってしまう。
  「にじゅう、いーち。…わああ――っ」
 ボールが糸でひっぱったみたいに、するっと恭太の膝のうえに落ちた。
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