わたしたちの好きなひと
 今年の4月。
 2Dの教室で。
 わたしたち3人は、1年ぶりにまたクラスメイトになってしまった。
 掛居のうしろについて新しい教室のドアをくぐるとき。
 わたしはどれほど勇気をふりしぼったかしれないのに。
『拓弥ぃ!』
 掛居に抱きついて、同じクラスになれたことを子どもみたいに喜んだ恭太は、 うしろでうつむいていたわたしに気づいて。
『…い、なが…き――…』
 稲垣って呼んだんだ。
 わたしのことを。
 
 それから半年。
 何気ないふうで、すれちがいながら。
 わたしたちの間には、1枚の大きなガラス板がある。
 恭太がわたしに作った透明な…壁。
 わたしたちはもう、友だちにもなれない。
 わたしはもう、屋上で人目を忍んで恭太を見つめることしかできない。
 あの、ベンチに座った女の子たちのなかには入れない。
 わたしと、恭太と、掛居……。
 正三角形のトライアングルはくずれて、いまは、いびつな「U」の字だ。


 掛居は黙ってグラウンドを走る恭太を見つめている。
「やっぱり、掛居のほうがアタマ…よかったよ、ね」
 掛居がグラウンドから、ゆっくりわたしに視線をうつした。
 ちょっと眉毛をよせたその表情は、同い年の女の子の気持ちなんて、底の底まで見通せる、わたしの自慢の俊英がときおり見せてくれる心からの同情。
「おまえがバカだっただけだ」
「うん……」
 そう。
 言うんじゃなかった。
 好きだなんて。
 言わなかったら、いまも友だちでいられたろうに。
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