7歳の侯爵夫人

6

翌朝。
目を覚まして寝室をうかがうと、よっぽど疲れていたのだろう、コンスタンスはまだ眠っていた。
そっと近づくと、頬に涙の跡が見えて、ハッと胸をつかれた。

喜怒哀楽を表に出さない人形のような女だと思っていたが、その寝顔は思いの外あどけない。
皆の前で気丈に振舞ってはいたが、さすがにまだ18歳になったばかりの少女なのだ。
見知らぬ土地に連れて来られ、隣室とは言え赤の他人と一夜を過ごし、心細くも、恐ろしくもあったのだろう。

ーすぐに、ここを発とうー

元々すぐ王都に戻るつもりではいたが、俺は彼女が目を覚ます前にこの邸宅を出ようと思った。
嫌な夫としばらく顔を合わせずに済むと思えば、彼女もホッとするだろう。
幸い執事のマテオも侍女長のベティも優しい人間だから、穏やかに過ごせることだろう。

俺は驚いて引き止めようとするマテオやベティを振り払って、ヒース侯爵領を後にした。
「次はいつ来られるのですか?」
と、責めるように問いただすマテオに答えもせずに。

今侯爵領には、俺の従兄弟にあたるジェドという男を領主代理として置いている。
彼は優秀で、信頼出来る男である。
近衛騎士の俺は王都を離れることが難しいため、領地経営はほぼ細かい報告をあげてもらって決定を下し、指示を出し、ジェドとマテオに任せているのが実情だ。
中のことはマテオに。
外のことはジェドに、という具合に。

だが、いずれはー。
騎士の仕事は天職だと自負しているが、いずれは辞めて領地経営に専念しなくてはならないだろうと思う。
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