7歳の侯爵夫人
ヒース領に入り、馬で畑の中の道を駆けていると、向こうにコンスタンスらしき貴婦人が立っているのが見えた。

馬を降り、近づいていく。
彼女は侍女に日傘を差しかけられ、農民数人と談笑している。
その微笑はたしかに貴婦人のそれであるが、その目には慈愛がこもっている。

本当に、俺は彼女の何を見ていたのだろう。
何故、この笑みを『貼り付けたようだ』などと思ってしまったのだろうか。

そっと近づいて行くと、足音に気付いた彼女が振り返った。

まさか、突然俺が現れるとは思っていなかったのだろう。
俺を目にした彼女はその翠の目を見開き、絶句した。

「ただいま、コンスタンス」

俺がそう声をかけると、彼女はさらにその目を大きく見開いたが、すぐに自分を立て直し、
「おかえりなさいませ、旦那様」
と軽く会釈した。
顔を上げ、真っ直ぐに俺を見つめてくる。

「コンスタンス。貴女を迎えに来たんです」
そう言うと、不思議そうに首を傾げる。

「一緒に、王都に帰りましょう」
「王都に?」
「ええ。王都に貴女を連れ帰るため、迎えに来たのです。でもその前に今は、貴女に聞いて欲しいことがたくさんあります」
「わかりました」

僅かだが、彼女が俺に向かって微笑んでいる。
俺は胸がいっぱいになった。

まずは邸に戻ったら、今までのことを謝罪し、許されるなら、一から夫婦としてやり直したいと告げよう。

そして、一緒に結婚1周年を祝いたいと願おう。
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