7歳の侯爵夫人
「では、またね」
コンスタンスが農民の子供に声をかけた。
彼女が頭を撫でてやると、子供は嬉しそうにニカッと笑う。
彼女も目尻を下げ、手を振って去って行く子供に小さく手を振った。

「…子供が好きなのですか?」
「ええ。子供たちの笑顔を見ていると癒されますわ」
「…そうですか」

子供か…。
胸の奥が、微かに痛む。
俺たちは夫婦でありながら、子供を望むような関係にすらなっていない。

俺は引いていた馬の手綱をダレルに渡し、彼女に手を差し出した。
邸までの道を、エスコートしようと思ったのだ。
でも彼女は手を出さず、少し困ったように微笑んだ。

「…コンスタンス…?」
俺の手は宙に浮いたまま。
彼女はその手を見ながら、躊躇うように口を開いた。

「実は私も、旦那様にお願いがあったのです」
「お願い?何をですか?」
「…邸に戻ってから話しますわ」
「…?気になるので、今話していただけますか?」

これまで何一つねだらなかった彼女が願うことなら、なんだって叶えてあげたいと思う。
そんな気持ちで、俺はたずねた。
だが、彼女の次の言葉は俺の浅はかな思いなど打ち砕くような言葉だった。
彼女は俺の目を真っ直ぐ見て、こう言ったのだ。

「旦那様。私と離縁してくださいませ」
と。
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