聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
「ふ、恐怖のあまり声も出ないか。無理もな――」

「やったぁぁぁぁ! 三年越しの召喚、大成功!」

 前触れもなくガッツポーズをして飛び跳ねるシャルロッテに男は(きょ)()かれた。シャルロッテはふるふると体を震わせている。ただし恐怖ではなく喜びで。

「やっぱりすべての書物を読む必要があったのね。ま、なんとか間に合ったからよしとしましょう! やっぱり大魔女にはそれなりの悪魔がついていないと。ラスボス感は大事!」

 うんうんと一人で納得するシャルロッテに男は怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

「お前、誰を相手にしているのか理解しているのか?」

「え、地獄帝国の総監察官でネクロマンサーとして有名なヘレパンツァー。自身も四十四の軍団を従えて、ネビロスとは親友なんでしょ?」

 あまりにも(よど)みのない説明にヘレパンツァーは舌を巻く。そして苦々しく返した。

「……最後の情報だけは訂正しておく。あいつと親友になった覚えはない」

 そこらへんは聞き流し、シャルロッテはまじまじと異様な姿の男を見つめ興奮気味に詰め寄る。

「私の実力をもってすれば当然とはいえ、昔、ネットで読んだ噂の悪魔を目の前にできるなんて!」

「ネット?」

「あ、こっちの話」

 シャルロッテが魔女としての力を発揮できたのは、前世で読み漁っていた魔術書の内容が大きな力となっていた。

 シャルロッテとしての人生はたかだか十六年だが、月永沙織として蓄積した魔女に関する知識量は並大抵のものではない。

 そして今日、心残りだった書物庫の残りの本を完読し、ヘレパンツァーを召喚する確実な術を得たのだ。
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