政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
不調
「結婚しても、あいかわらずね」
 やれやれというように枕元で母がため息をつく。
 柚子はそれをベッドの中から見上げていた。
「迷惑かけてごめんなさい」
 眉を下げてそう言うと、母はもう一度ため息をつく。
 そして首を横に振った。
「べつに迷惑ではないけれど……、大変ならもっと早く言いなさい。心配するじゃない。とにかく、なにか作ってくるから、寝てるのよ」
 小言を言って、足元のクロを抱き上げて、母は部屋を出て行く。パタンと閉まるドアを見つめて柚子は小さく息を吐いた。
 結局、柚子は翔吾に本当のことを言えなかった。
 また寂しい生活に戻るのだという孤独感に完全に負けてしまったのだ。
 あの朝、泣きじゃくる柚子を見かねて翔吾は出発時間を遅らせようとした。
 それを柚子は『大丈夫だから』と説得して送り出す、それが精一杯だった。ひとりになった後、どっと疲れを感じてしまってまたそのままベッドで眠ってしまったのだ。
 そしてまた目を覚ましてみれば、熱が出ていた。幸いにして、高熱ではなかったがとにかく身体がだるかった。
 結局柚子はその日一日をベッドの中で過ごした。
 熱は次の日も下がらなかった。そして身体のだるさははあいかわらずだ。
 とはいえ、柚子が妊娠していると思い込んでいる翔吾に言うわけにもいかないし、少し寝ればなんとかなると思い柚子はひとりで乗り切ろうとした。
 でも三日目の今日、クロの世話だけでも、と柚子は母に助けを求めたのだ。
 クロは柚子と違って本当に妊娠している。一番大切な時期、もし柚子が眠っているうちになにかあったらと思うととても安心して眠ってなどいられないからだ。
 連絡を受けた母はすぐに来てくれた。
 無類の猫好きの彼女がいればとりあえずクロのことは大丈夫。
 少しだけ安心して柚子はゆっくりと目を閉じた。
< 48 / 108 >

この作品をシェア

pagetop