政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
柚子の憂鬱
「今日は少し遅くなりそうだから、先に寝てて」
 一夜明けた土曜日の朝。
 都内の一等地のマンションの大きな窓から朝日が差し込む明るい寝室で、身支度を整えながら翔吾は言う。
 ウォークインローゼットで自分の服を選んでいた柚子は、振り向いて思わず彼に見惚れてしまう。
 百八十センチの長身に、ぴたりと添うダークブルーのスーツを着こなして、少しクセのある黒い髪を上品に流している翔吾は、ため息が出るほどカッコいい。
 本当にこんな素敵な人が自分の夫なのだろうかと、未だに信じられないくらいだった。
「柚子?」
 ぼんやりと彼を見つめていた柚子は、尋ねられてハッとする。そして慌てて頷いた。
「わかった」
 翔吾が眉を寄せた。
「少し疲れているんじゃないか? 今日は無理に行かなくてもいいんだぞ」
 今日柚子は、彼が副社長を務める総合商社朝比奈グループの社長夫人であり彼の母でもある朝比奈良子(よしこ)が出展する生花の展覧会に行くことになっている。
 もともとは夫婦で行く予定だったのだが、翔吾は急遽別件が入り、柚子だけが行くことになったのだ。
 国内最大手の企業のゆくゆくは社長となる予定の朝比奈翔吾の妻という立場は案外忙しい。
 柚子自身は働いているわけではないけれど、たくさんいる朝比奈家の親戚との付き合い、取引先からの家族を巻き込んだ誘いはひっきりなしだ。
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