仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

仮面の貴公子後悔する

***

「おかえりなさいませ旦那さま」
「ああ」
屋敷に帰ればいつものようにベリル執事が出迎える。
すれ違う使用人たちも丁寧に挨拶して去っていく。
食堂に行ってもいつものように静かにマリアが料理を運び食事が終われば静かに片付ける。
部屋へ戻る途中窓から裏庭を覗けばセドリックが箒で落ち葉の掃除をし、その傍らでグレイがしゃがみこんでタバコを吹かしていた。
ずっと前からあるいつもの光景、いつもの日常。
なのにユーリスは居心地の悪い思いがして足早に私室に戻った。

フローラを追い出してから数日が経っていた。
あの日戻った屋敷はまるで光をなくしたかのように皆暗く沈んでいた。
あれほど仲よくしていたフローラを追い出したのだから、たとえ主人といえど詰られると思っていたが誰も詰め寄ってくることもなく、淡々とした態度にユーリスは拍子抜けした。
唯一苦言を呈してきたのはベリルだったが、それもフローラは宮殿に行き父親とともに地元に帰るだろうという事後報告の後に「あのような思いやりのある優しい方を追い出すなどご両親が聞けば嘆かれるでしょう」と一言言われただけだった。
両親を引き合いに出されたことに腹を立てたが、「このような事態を招いてしまったのはすべて私の責任です。どうぞご処分を、いかようにもお受けいたします」とベリルに頭を下げられた時には言葉に詰まってしまった。
もちろん処分する気などない。
「もういい、下がれ」と苦々しくベリルを下がらせ仮面を取ると片手で額を覆うように項垂れた。

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