◇水嶺のフィラメント◇
「やったな、パニ!」

「いえ、フォルテさんのお陰です!」

 お姫さま抱っこされたお姫さまの装いのパニは、満面の笑みをフォルテの笑顔と交わした。

 全員からの手荒い祝福を受け終えて、ふわりと地面に降り立った。

「ふん……どうせ死ぬなら……道連れだっ!!」

「……──えっ!?」

 その足先から(うめ)くような叫び声が聞こえてきて、突如パニの足首が何者かに掴まれた。

 パニが戦場へ突進し、リーフが撃ち倒した一人目の影──気絶したのか機を(うかが)っていたのか、ずっと身じろぎもしなかったその身体が、気付かれないようにムクリと腕を上げ、パニの足首へその手を伸ばしたのだった。

 影は肩で呼吸しながら、うつぶせの身を崖側へずらした。

 左半身が宙に浮き、続いた右半身も重力に従って落ちる。

 撃たれた傷口からドクドクと溢れ出る血液が、残像のように赤々と舞い散った。

 その景色を一緒に流れ落ちたモノとは──



「パニ──っ!!」



 先刻悦びを持ってパニの頭を撫で回した全員の手は、もはやその幻すらも掴み取ることは出来なかった。



 まるで死神に引きずられてゆくかのように、パニの身体が暗黒へ消えた──。


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