◇水嶺のフィラメント◇
 その隙を狙ったパニはフォルテに叫び、地面に着地した身をグンと大きく跳躍させる。

 影の頭上で一回転、肩車の状態で腰を下ろしたパニは、後ろから影の両目を覆い隠した。 

 更に影の前で組んだ脚で、その首をきつく締め上げる。

 視界を遮られ呼吸困難になった影は動揺し、首に絡みついた(すね)と目隠しを外そうと暴れ出した。

 もう三年、剣舞の舞姫であるメティアの相手を務めてきたパニだ。

 剣(さば)きはもちろんのこと、その身の素早さから軽業(かるわざ)でも人々を魅了してきた。

「ぐっ、ぐふっ ──っんあ!?」

 息も絶え絶えな上、(えぐ)ってしまいそうなほど喰い込ませた指先がよほど痛いのだろう、崖を落ちる危険も(かえり)みずフラフラと辺りを動き回り、影はとうとう足を滑らせた。

「飛べっ、パニ!!」

 誰とも分からぬその声を合図に、パニは目隠しも脚のクロスも外して、咄嗟に影の肩に立ち上がり跳んだ。

 目の前から眼下の谷底へ消える影の身体、そして投げ出した自分の身体は兵士の一人にキャッチされて、気付けば四方八方からみんなの手が伸ばされていた。

「パニっ!!」

 全員の歓声がパニを取り巻く。

 誰一人大きな怪我をすることなく命を落とすことなく、敵を撃破出来た高揚感が辺りの空気を熱くした。


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