◇水嶺のフィラメント◇
「だから僕も城へは戻らなかった。実際フランベルジェから帰国したことも未だ内密にしてあるんだ。僕が国内に居ると分かれば、おそらく政府は君の確保に乗り出してしまう。その前に……どうにか君たちを国外へ逃がしたかった」

 そこまでを話して今度はレインが立ち上がった。「少しの間待っていて」と言い残すと、不思議そうに見守る全員に背を向け、颯爽と出口を目指してしまった。

 先程のフォルテとは違い、音もなく階段を下ってゆく。やがて戻ってきたレインの後ろには、同じ外套(マント)を羽織った細身の影が立っていた。

「あの……そちらの方は?」

 全員が立ち上がり、レインとその影を部屋の中央へ迎え入れた。上着のフードに隠されてハッキリとはしないが、微かに見える口元は随分と若そうな雰囲気だ。

「僕が昨日一日を掛けて、ようやく見つけた「風」だよ。名前はパニ、十三歳。この子にアンの身代わりを務めてもらう。フォルテ、アンの旅支度をこの子に着せてみてくれ」

「はっ! ──え? いえっ、はいぃ~!?」

 いきなり告げられたお願いに、フォルテは驚きで混乱した。

「レイン、身代わりって……それにこんなに幼い少女を巻き込むだなんて」

 アンの気遣いが嬉しかったのか、パニの唇がほんのり上向きの弧を描いた。が、レインもパニもアンの反論など意に介するつもりはなさそうだ。


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