◇水嶺のフィラメント◇
「心配は無用だよ、アン。パニはまだ若いけれど、リムナトの兵士とも互角に渡り合えるくらいの心得がある。君と背格好も近いから、探索の目をごまかすことくらい出来る筈だ」

「まだ十代半ばなのに……それに女の子が、それほどの強さを?」

 一見したらか弱い少女にしか見えないパニに、アンは思わず目をパチクリさせた。それでもこの緊急時、レインが時間を()しんでも探し出したかった少女だ。

 彼に何か妙案があるのか、それとも見た目以上の特異な能力がパニにはあるのか、ここはともかく従うべきだとこれ以上の追究は避けた。

 当のパニはそれからようやくフードを降ろしたが、敬意を表するように俯き、未だその表情は見えなかった。アンの長く真っ直ぐな黒髪とは違い、緩くカールした茶色い髪は襟足ほどである。

 やがてアンの面前に(おもむ)き、パニは(ひざまず)いて彼女の手を取った。その白くしなやかな甲を自分の額に触れさせて小さく(ささや)いた。

「お初にお目に掛かります、アンシェルヌ王女さま。わたくしなどにお役目を(たまわ)り恐悦至極に存じます」

「アンでいいのよ、パニ。このようなことに協力してくれて、心から感謝します。でもどうかその身に危険を感じたら、何物も気にせず自衛の道を選んでくださいね」

「もったいないお言葉、痛み入ります」

 ゆっくりと体勢を戻して、ようやくパニとアンは瞳を合わせた。確かに身の丈はちょうど同じらしく、真正面で視線がかち合う。


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