白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

魔法の箱


フィルベルド様の休暇が今日で終わる。明日からは、仕事が再開する。
でも、以前と違うのは他国に行かず、この国で仕事をすることになっている。
アスラン殿下の護衛を主にするし、第二騎士団の屯所はお城の一角にあるからフィルベルド様は毎日お城に通うらしい。

「無理して通わなくてもいいんですよ?」
「少しでも、ディアナといたい。この6年を埋めたいんだ」

熱を込めるようにそう言ったフィルベルド様は、私が遠慮しても何が何でも毎日帰って来そうだった。騎士団の宿舎もあるし、フィルベルド様ならお城にお部屋を持っていても不思議じゃないのに。

「奥様。髪はどうでしょうか?」

今日のフィルベルド様の会話を思い出していると、ドレスの支度が整い、髪のセットが終わったホテルメイドがそう聞いてきた。
鏡を見ると、巻いた髪が横にまとめられており少し大人っぽく見えた。鏡の中のホテルメイドの緊張も伺える。

「ありがとうございます。お上手なのね。助かりました」
「そんな……ありがとうございます。奥様」

感謝を込めてそう言うと、彼女は恐縮しながらも照れたように笑顔を見せてくれた。
フィルベルド様が、今夜の支度のために「妻の支度が出来るメイドを」と支配人に頼み、髪を結わえられる呼んだホテルメイドが彼女ミリアだった。

支度が終わり、フィルベルド様を迎えに行こうとして、ミリアと部屋を出るとすでにフィルベルド様が廊下で待っていた。

「お待たせしてすみません」
「気にすることは無い。妻の支度を待つのは当然だ……ディアナ。綺麗だ」
「ミリアのおかげです。手際よく、綺麗に支度をしてくださいました」
「そうか……感謝する」
「は、はい……!!」

ミリアは慌てて頭を下げて、この場を去った。

「ディアナ。晩餐に行く前に、少し見せたいものがある」
「見せたいものですか?」

そう言って、もう一つ私の荷物置き場として借りている部屋に連れてこられた。
フィルベルド様が次から次へと買い物をするから、私の荷物がこの三日間で大量に増えて、置き場が無くなったから借りた部屋だった。

その部屋には、また荷物が増えている。

「先ほど、スウェル子爵家の徴収が終わった。すぐに現金が準備出来なかったようで、足りない分は、邸の物を徴収して来た……こちらの証書は、ディアナの金だ。今は俺の財産管理人に預けている」

呆然とする私に渡された証書は、多額のお金だった。そして、見覚えのない調度品から、見覚えのある物までが並べられていた。

「フィルベルド様……どうしてスウェル子爵家の徴収を?」
「ディアナへの仕送りを着服していたからだ。ディアナには、悪いがもう援助もしない」
「じゃあ……仕送りがなかった理由は……私がフィルベルド様に嫌われているわけではなかったのですね……」
「当然だ。こんなに苦労をさせるつもりはなかった。本当にすまない……」
「フィルベルド様のせいじゃありません……」

謝罪してくるフィルベルド様に、怒っているわけではなかった。
まさか、叔父が着服しているとは思わなかった。アクスウィス公爵家のおかげで、以前よりもスウェル子爵家はお金に困ってなかったのに……。

目の前には、本が一冊入りそうな古びた箱がある。
お母様が嫁いで来た時に持って来た物だった。懐かしい……もうずっと見てなかったから、お母様が捨てたと思っていた。その古びた箱をそっと取った。

「それは、宝石箱か?」
「小物入れだと思うんですけど……中には何も入ってないんです。でも、お母様がこの国に嫁いで来た時に一緒に持って来た物らしくって……幼い頃に亡くなった母ですが、昔はこの箱に綺麗な落ち葉を一緒に集めて遊んでいました。懐かしいです……」

優しく微笑む母が思い出すと懐かしくて蓋を開けるが、やはり何も入ってない。
蓋の内側の文字も読めないままなのも変わらない。

「やっぱりなんて書いてあるか読めませんね……」
「くすんでいるのか? 昔は何か書いてあったのか? 魔法の箱のようにも見えるが……」
「お母様の家系には、魔法使いもいたそうですから、魔法の箱でも不思議はありませんね」

魔法の箱だと思ったから、きっと価値があると思って徴収して来たのだろう。
お母様は、隣国ゼノンリード王国の出身だから、珍しい装飾だと思ったのかもしれない。

思いがけず母を思い出し、古びた箱をそっと置く。

「では、行こうか」
「はい」

背筋を伸ばした私は、フィルベルド様の腕に手を回し、今夜の晩餐会へと出かけた。






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