9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
六章 時空魔法の弊害
長期風邪の特効薬は、セシリアの講習会に来てくれた薬師たちによって瞬く間に民衆に広まったという。

巷では長期風邪に悩む人々が増えつつあったらしく、早くも特効薬を開発してくれた王室に、感謝の声が相次いでいるらしい。

(これできっと、あの疫病がオルバンス帝国に広がることはないわね。そして、エンヤード王国にも)

そんな風に、セシリアが胸を撫で下ろしていた折のことだった。

いつものように夜に部屋を訪ねてきたデズモンドから、思わぬ話を聞かされる。

「エンヤード王国から使者がいらっしゃるのですか?」

「ああ。第二王子のカイン王子が筆頭となって来城するらしい。俺が持ちかけた友好条約の締結のためだが、我が国をよく知ってもらうためにも、しばらく滞在してもらう予定だ」

「カイン殿下が。そうですか」

エヴァンの弟のカインは、兄とは違って、見た目も言動も大人しく目立たないタイプの少年である。

読書が好きで、王城内のあちこちで本を読んでいる姿をよく見かけた。

彼は、他の者とは違い、セシリアを見下したり蔑んだりしなかった。

といっても優しさからではなく、単純にそういった下世話なことには興味がないだけのようだったが。

とにかくセシリアにとっては、エンヤード城内で気負わずに接することのできる希少な存在であり、カインに久々に会えるのは素直にうれしい。

「ところでセシリア。何か忘れていないか?」

「何のことでしょう?」
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