9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
三章 皇太子デズモンド
窓辺で鳴く小鳥の声で、デズモンドは目を覚ました。

窓から差し込む太陽の光に目を瞠る。

(こんな時間まで寝ていたのか)

起きたとき、室内が明るいのはいつぶりだろう。

いつもは必ず、まだ世界が宵闇に包まれているうちに目覚めるのに。

(まさか、女を抱いたからか?)

思い出し、昨夜の温もりを追い求めるように、敷布の先に手を伸ばす。

だがそこにあるはずの滑らかな肌は、跡形もなく消えていた。

身を起こし、あたりを見回す。

昨晩脱ぎ捨てた彼女の衣服も、忽然と消えていた。

デズモンドの衣服だけが綺麗にたたまれ、隅の椅子に置かれている。

「どこに行った」

額に手を当て、彼女の行方に思いを巡らせる。

女ひとり消えただけで、こんなにも焦っている自分に驚かされた。

エンヤード王国の王都にある酒場で知り合った彼女は、背中までの波打つ栗色の髪に、エメラルドグリーンの瞳をしていた。彼女の清楚な美しさを引き立てていた、質素なダークネイビーのワンピースドレス。

派手ではないし、どちらかというと目立たない雰囲気の女である。

それでも野山にひっそりと咲く可憐な花のような、隠された美しさに、カウンターの隅で酒を飲んでいたデズモンドは最初から気づいていた。
< 72 / 348 >

この作品をシェア

pagetop