秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
最終章

 午後九時ちょうど。
 私は約束通りアズフィール様の部屋を訪ねた。右手に握った鞄には、いつもの鍼灸道具に加え、ラベンダーのお灸が入っていた。
 ──コン、コン。
「入ってくれ」
「失礼します。……アズフィール様?」
「こっちだ」
 アズフィール様が、奥の長窓から続くベランダに立ち、私を手招いていた。私は室内手前の応接テーブルに鞄を置き、アズフィール様の方に向かった。
「ここにいたのね」
 今日のアズフィール様は珍しく正装を解いておらず、普段なら煩わしいと言ってすぐに外してしまうサークレットも、まだ付けたままだった。
「少し夜風を浴びて、頭を冷やしたくてな」
 私もベランダに出て、手擦りに手を置いてアズフィール様と並んで空を仰いだ。
「今日は星が奇麗ね。風も心地いいわ」
「あぁ」
 満天の星空からアズフィール様に視線を移す。彼の横顔は、明らかに疲れが色濃かった。
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