天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
生涯を共に
▼生涯を共に

 優弦さんと番になる覚悟を決めてから、彼と物理的な意味ですれ違う日々が続いていた。
 帰宅後も井之頭さんと話し合って何かを真剣に話し合っており、多忙を極めている様子で、迂闊に話しかけられるような空気でもなかった。
 けれど、私のことを放置しているわけでもなくて、寝ているふりをしている私の頬にキスをしてから『愛してる』と囁いて部屋を出て行ったりするので、私は日々激しく戸惑っている。
 彼の『待っていて』という言葉をただ信じて、今は邪魔をしないようにだけして過ごそうと思い大人しくしていると、空気を読んだかのように日中メールが届いたりもする。
 正直、優弦さんの愛は嫌というほど毎日感じながら、私はただただ彼の多忙ぶりを見守ることしかできなかった。
「じゃあね、ばあや。故郷でゆっくりしてきてね」
「一週間もお暇を頂いてしまい、申し訳ないです……」
「何言ってるの。お正月くらい大切な場所でゆっくり過ごして」
 いよいよ今日で今年も最後というところで、ばあやが地元の青森県に帰ることになった。
 本当はもっと早く帰省してもらっても大丈夫だったのに、ばあやが心配してギリギリまで一緒にいてくれた。
「世莉お嬢様もどうか、ゆっくりしてくださいね。この一週間ろくに寝れていなかったんですから」
「大丈夫よ。縫い方を忘れるくらい羽を伸ばしてみるわ」
「ふふ、頼もしいことです」
 ばあやは小さく笑って、荷物を持って玄関のドアに手をかけた。
「じゃあ……何かあったらいつでもご連絡ください」
「何言ってるの。スマホの電源なんか切って休んできて」
「ありがとうございます。それではよいお年をお迎えください」
「うん、来年もよろしくね」
 ばあやにひらひらと手を振って、見送った。
 扉が閉まると、私はひとつ気合を入れる。
 なぜならば、明日の元旦は相良家の一族全員が大広間に集まり新年会を開く予定なのだ。
 総勢三十名近く集まるため、さすがに女中の人手も足りないので、外部から出張シェフが何人も来るらしい。
 旦那様を中心に親族全員で和になって同じご飯を食べ、お酌をするのだとか。
 一番新入りの私がお酌を任されるのは目に見えていたので、今日のうちにエネルギーを溜めておかねばならない。
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